1. Home
  2. essay
  3. 019

恩師お三方のお宝年賀状

恩師お三方のお宝年賀状

 毎年、私に届く年賀状は多種多様で楽しい。着彩された絵はがきやイラスト、版画、自分の作品や家族の近況写真、芸術性豊かな毛筆の直筆などは心 が込められていて嬉しくなる。

 多くの賀状の中には、多用多忙にとりまぎれ、印刷活字のみのパターン化した賀状も少なくない。特に添え書きもなく、アドレスまで活字の賀状は儀礼的で何とも味気ない。下手な文字でも、直筆の文字は、心が響き伝わり、ほっとした気持ちになる。

 今年も私の小学校時代の恩師お三方から直筆の賀状をいただいた。残念なことに、中・高校時代の恩師は故人となって久しいが、小学校時代のお三方はご健在である。

 小三年時の中村先生と小四年時の坂元先生は、図工美術に関心を持たせてくださった。五・六年担任の佐藤先生は、多感なひねくれ少年時代、以心伝 心の温かいご指導で育んでくださった。この三人の先生方との出会いがあり、私は美術の教師としての道を歩むことになったと思っている。特に佐藤先生と私は「事実は小説より奇なり」を思わせることがある。佐藤先生のお父様と私の父は、北朝鮮の鉄道員で近くの住人同士だった。城津公立国民学校一年の時、先生は新米教師。第二次世界大戦の戦況が厳しくなり、先生は出征兵士として、児童生徒に見送られ、鉄道列車で北の方へ向かわれた。その時のことは、なぜか今も私の記憶に残っている。その後、先生のお父様も私の父も異国で貴重な命を失う悲劇があり、残された傷心の家族は祖国鹿児島へ引き揚げてきた。

 先生がシベリア抑留後に帰国され鹿児島県の教職に復帰し、なんと私の担任になる奇遇は、なんとも不思議なご縁である。

 ことし73歳になる私に、今も激励と元気をくださる恩師お三方の直筆年賀状は、私のお宝だが、未だに恩返し出来ないでいる。

2010(平成22)年3月23日第509号