冬の暖かい日ざしのなかに一見平凡な踏切の風景がある。わたしはどうしてか、この景に魅せられる。孤独を好んだ学生のころ、この界隈をよく散歩したもので印象深い。
西郷南洲終焉の碑─ここの階段にしばし座して前方を見わたすとK駅を結ぶ国鉄路線の信号機、橋梁を走るグリーンの電車が目にはいる。ゴーッと鳴動する市電の橋梁を国鉄の列車が流れるようにくぐる。電車と列車の交響音。それに踏切の遮断機がカーン、カーンとなりひびく。このひびきあいがかもしだす風景。すばらしい構図のなかに、わたしは一瞬ときを忘れてしまう。『静』をうち破るかのようにおとずれる交響音、それは、わたしの孤独な心をすっかり吹き飛ばしてくれる。
いつのまにか国鉄の複線電化、車両もカラフルになったが、平凡に見える岩崎谷の踏切の風景。ここに生まれる交響音は、むしょうにわたしの心をとらえて離さない。